スペイン・バレンシアのサッカー指導者留学体験談
バレンシアでスペインのサッカー指導者学校に通っている、長谷川 実広さんのサッカー指導者留学の体験談です。
長谷川さんは高校時代はアルゼンチンでサッカー留学、その後スペイン・バレンシアでもサッカー短期留学を経験され、ワーキングホリデービザと長期学生ビザを使ってバレンシアのサッカークラブで仕事をしながらスペインのサッカー指導者学校に通われています。
なぜスペイン・バレンシアを指導者留学先に選んだのか
スペインのサッカー選手育成は世界でも定評があり、たくさんの名選手がスペインクラブのカンテラから排出されています。そのことから『サッカー指導を学ぶならスペイン』と選手時代から決めていました。
なぜ修行の地としてバレンシアを選んだかというと、サッカー留学で選手として滞在した経験があったからです。とても好印象を持っていたので、スペインに再度行くと決めてから、選択肢はバレンシアだけでした。
さらに、バレンシアにはたくさんのサッカークラブが存在しているので、サッカーを学ぶ上ではこれ以上ない環境だと思います。
スペインの指導者学校は2種類ある
スペインの指導者学校は、各州サッカー協会が主催するFederativoと民間の企業が主催するAcadémicoがあります。
Federativo:スペインサッカー協会管轄の指導者学校。コース終了後、スペイン国外で指揮する場合UEFAライセンス取得可能。
Académico:スペイン文部科学省が管轄する職業訓練学校(Formación Profesional、またはFP)。コース終了後、大学へのアクセスが可能。
スペイン国外で指揮する場合、UEFAライセンス取得のためスペインサッカー協会が主催するコース(Federativo)を受講する必要があります。
FederativoとAcadémicoの授業内容や期間に大きな違いはありません。さらに、スペインで指導する上では同じ資格として扱われます。となると、Federativoの方がいいのでは?思われるかもしれませんが、現時点でスペイン国籍もしくは永住権を持っていない外国人がUEFAライセンスへアクセスすることはできません。つまり日本人留学生はどちらのコースを選んでもスペイン国内でしか指導ができない。ということです。
それでもこの国で方法論や育成現場を学ぶことは、今後の指導者人生において非常に有益なものだと思います! どうしてもUEFAライセンスが欲しい方は、イングランドやドイツなどに行かれることをお勧めします。
指導者学校の手続きと受講条件・コース期間
指導者レベルは下記のように3段階に分かれており、1年間1レベルのみを受講する事ができます。つまり最短3年でトップライセンスが取得可能です。
- レベル1:ユース年代までの監督が可能
- レベル2 :トップカテゴリーの地域リーグまでの監督が可能
- レベル3: 全リーグカテゴリーでの指揮が可能
レベル1受講のための条件
- 16歳以上であること
- フィジカルテストに合格すること(入学前にある簡単な体力測定と認識していただいて構いません。)
- E.S.O (義務中等教育)を修了していること
3つ目の義務中等教育修了というのは、サッカー指導を勉強しにくる人はクリアをしているとは思いますが、日本人はスペインで母国の学位を認定してもらうオモロガシオン(Homologación)という手続きする必要があります。この手続きを行わなければ、正式にはスペインでは学歴なしと判断されてしまいます。
Homologaciónは申請準備から、発行まですごく時間がかかります。サッカー指導を学びに来た留学生はまずこの申請から取り掛かることをすることをお勧めします。
ここでは詳しく触れませんが、簡単な手続きの流れはこちらです。
- 卒業証明書、成績証明書を準備
- 外務省にて、アポスティーユ 申請
- スペイン語へ公文翻訳
- スペイン文部科学省へ提出
- Homologación完了
私の場合は高校卒業証明書と成績証明書を提出し、高校卒業資格をスペインで有効なものに書き換えましたが、Homologaciónの証明書の受け取りまで約1年間かかりました。
大学卒業資格のHomologaciónももちろん可能です。ただ高等学校卒業資格を認定してもらう方が早く・簡単なので、時間がない方はこちらを勧めます。
指導者学校の入学手続き
入学手続きはとても簡単です。基本的に自分で行わなければなりませんが、わからないことがあれば、学校のスタッフがサポートしてくれます。
入学手続きの流れは次のようになります。
コースが開始する約2ヶ月ほど前から(8月辺り)、学校のHPにて仮登録ができます。この仮登録で、個人情報の入力と学費の入金をします。
この手続き後に学校から仮登録完了の連絡が来るので、後日入学に必要な書類を提出しに行きます。
指導者学校の入学に必要な書類は、
- Tarjeta de Estudainteのコピー
- 学費を支払った際の領収書
- 出身高校の卒業証明書と成績証明書(オモロガシオンの手続きが必要です。手続きが終わっていない場合は、手続き中であることを証明する書類を提出すればOKです)
これらを提出して、入学手続きは完了します。
指導者留学をされる方で、指導者学校の入学手続きの日本語サポートが必要な方は下記をご覧下さい。バレンシア在住の日本人指導者が入学手続きのサポートをしてくれます。
指導者学校のコース料金
学費はFederativo、Académicoどちらのコースも各レベル700-1000€です。(2020年の料金)
指導者コースは10月ごろに開始し、3月下旬に終了します。その後、ライセンス取得に必須のクラブでの研修を行います。
指導者学校の勉強内容やスペイン語レベル
指導者学校のレベル1の科目は全部で16科目あり、その後クラブにて150時間の現場研修があります。
科目は、解剖学、教育学、スポーツトレーニング学、スポーツ社会学、スポーツ法学、応急処置、フィジカル準備、方法論、技術、戦術など多岐に渡ります。学校では、初めにスポーツ全般に必要となる知識を学んでいき、最後にサッカーに特化したより細かな部分を勉強します。
内容を全て理解しライセンスを取得するためには、スペイン語レベルB2(中上級レベル)くらいは持っていた方がいいでしょう。入学から逆算して、事前に語学学校で勉強することをお勧めします。私の場合はクラスに外国人は一人だけでした。当然授業はスペイン語のみ、スペイン人を対象のクラスとなります。
指導者学校の同級生
生徒層は非常に様々でした。名の知れたビッククラブのカンテラコーチや、ただライセンスを取得するためだけにクラスに来ているおじさんもいました。みんな優しかったのですが、サッカーの話になると、性別年齢関係なく白熱した議論が繰り広げるので驚きです。
授業は私立学校の放課後の教室で行われます。技術、戦術などの科目は地元クラブのグランドで実際にピッチに立って行うこともありました。休み時間にはみんなでカフェに行きサッカー談話をしていました。
スペインで指導者コースを受講する利点
現在、私はレベル2の座学が全て終了したところです。残すはクラブでの研修のみで、これをクリアするとスペイン国内ライセンスレベル2が交付されます。
多くの人が気になっている、日本のライセンスに書き換えが可能かという事ですが、残念ながら、スペイン指導者ライセンスは日本の指導者ライセンスとの互換性はありません。スペインでのみ有効な資格となっています。
しかし、スペインでコーチングの勉強をして、経験を積むことで、日本のサッカー業界でも評価される材料の一つになることは間違いないでしょう。
私はこのコースを通して、指導者となるための基礎基本を教え込まれたと思います。しかし個人的に本当に大切だと思うのは、スペインのクラブにコーチとして所属して、ピッチに立って実践を通して学ぶことです。資格の有無にとらわれず、常に学ぶ姿勢が指導者にとって大切なのではないかと、スペインで感じました。
『海外で学びたい』という日本の若い指導者には、ぜひ一歩踏み出して、スペインでチャレンジしてほしいと思っています。
ここで記載されている情報はバレンシアでAcadémicoのコースを受講している長谷川 実広さんの体験に基づいたものです。各州により規定に微妙な違いがありますので、留学前によく確認することをお勧めします。